なぜ、今、日本でDXが議論されるのか 〜 注61

公開: 2021年5月7日

更新: 2021年6月3日

注61. 21世紀の社会における所得格差の拡大

21世紀に入って、米国社会では、富の格差が拡大し始めていた。1990年代後半の好景気を支えたIT関連産業を中心に、資本家や企業経営者の所得は増大したが、中間層であった工場労働者の所得は大きく減少した。そして2008年9月、貧しい人々の住宅購入ローンを細分化して債権化したサブプライム・ローンの破たんがきっかけとなって発生した金融危機(リーマン・ショック)によって、米国経済が大きく後退すると、この富裕層と低所得層の人々との間の所得格差は、さらに拡大した。

ニューヨーク市では、職を失い、家を失った人々が、「金融街を占拠せよ」との掛け声によって、市内の公園に集結し、連日、デモを行った。この訴えの中心となっていた若者達は、主として学生などで、学費ローンを抱えながらも、仕事に就けないため、破産状態に陥っていた人々であった。彼らは、金融機関や大企業が、多額の政府資金援助で倒産を免れたのに対して、貧しい人々に対しては、米国政府は経済的な援助をせず、見殺し状態に置いたことが不公平であったと、米国政府を非難した。

この時、ブッシュ政権から国家運営を引き継いだオバマ政権は、国家経済を支えていた大企業と金融機関を守もり、米国全体の経済を破たんさせないようにすることを優先して、多額の公的資金を投入した。さらに、連邦準備銀行(FRB)も、低金利政策で、企業の資金融通をやり易くする政策を続けた。その結果、経済は少しずつ回復したが、支援を受けた金融業界も、大企業も、現在まで投入された公的資金の返済はしていない。そして、多くの庶民は、少なくなった所得に苦しみ、若者達は、学費ローンの返済にも苦しんでいる。

米国社会における近年の、若者達の新社会主義への傾倒は、このような資本主義の帰結として起こっている「所得格差の拡大」に対する抗議運動と見ることもできる。そのことが、自らを「新社会主義者」と呼ぶ、民主党大統領候補のサンダース上院議員を若者達が熱狂的に支援している背景にある。サンダース議員は、米国社会でも北欧の国々のように、大学の学費を、本人の負担とせず、国費で賄うべきであると主張している。

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